Noah ART Clinic武蔵小杉(ノア・アートクリニック)

培養室コラム

第32回 【先進医療シリーズ③】タイムラプスモニタリングシステムについて

皆さんこんにちは。

長かった寒い冬が明け、春の訪れ(主に花粉…)を感じつつある今日この頃ですが、いかがお過ごしでしょうか。

今回は先進医療シリーズ第3弾として、当院でも全症例で導入されている、タイムラプスモニタリングシステムについてお話したいと思います。

 

タイムラプスモニタリングシステムとは

不妊治療における体外受精では、採卵後に受精した胚を培養器(インキュベーター)の中で育て、その中から移植する胚を選択します。これまで胚の評価は、決められた時間にインキュベーターから胚を取り出し、顕微鏡で観察する方法が一般的でした。

 

しかしこの方法では、次のような課題がありました。

・観察のたびに培養器から取り出す必要がある

・温度やガス環境が一時的に変化する

・観察できるタイミングが限られている

 

そこで開発されたのが、「タイムラプスモニタリングシステム」です。

 

技術の登場背景

タイムラプスとは、一定間隔で連続撮影を行い、その変化を動画として記録する技術です。この技術を胚培養に応用し、インキュベーターの中にカメラと顕微鏡を組み込むことで、胚を外に出すことなく連続観察することが可能になりました。

2009年頃に商品化されたタイムラプスインキュベーターは、現在では世界中の不妊治療施設で導入が進み、胚評価の新しいスタンダードの一つとなっています。

従来は“ある時点の静止画”でしか評価できなかった胚が、タイムラプスでは“成長の過程そのもの”を見ることができます。分割のスピード、細胞の動き、わずかな形態変化など、これまで見逃されがちだった情報が得られるようになりました。

※図:不妊治療情報センターHPより引用

タイムラプスインキュベーターの種類

現在、国内外の複数のメーカーからタイムラプスインキュベーターが開発されています。

主なメーカーとその商品ですが、

・Vitrolife の EmbryoScopeシリーズ

・Genea Biomedx の Geri®

・ESCO Medical の MIRI®

・アステック の CCMシリーズ

が挙げられます。

 

それぞれに特徴があり、

・AIによる胚評価支援機能が充実している機種

・独立チャンバー方式で他の胚の影響を受けにくい設計

・加湿型でより生理的環境に近づけた培養が可能なタイプ

など、施設の方針や規模に応じて選択されています。

重要なのは、どの機種かだけでなく、培養室の管理体制や培養士の技術と組み合わせることです。タイムラプスはあくまで胚評価を支えるツールであり、最終的な判断は培養士の経験と知見に基づいて行われます。

タイムラプスがもたらす利点

1.胚へのストレスを減らす

最大の利点は、胚をインキュベーターから取り出さずに観察できることです。

温度・二酸化炭素濃度・酸素濃度が安定した環境を保ちながら培養できるため、胚への物理的ストレスを軽減できます。これは、より体内に近い環境を維持することにつながります。

 

2.発育の過程を評価できる

従来は観察のある瞬間しか見ることができませんでしたが、タイムラプスでは分割のタイミングやパターンを詳細に確認できます。胚の発育スピードや分裂様式は、胚の質を評価するうえで重要な情報となります。単なる形の良し悪しだけではなく、このような動的情報を活用することで、より多角的な胚評価が可能になります。

 

3.客観性の向上

一部の機種ではAI解析機能と連携し、発育データをもとに客観的な指標を提示することが可能です。評価の標準化が進むことで、より安定した胚選択につながると期待されています。

当院のタイムラプス培養環境

当院では、EmbryoScope+ を導入しています。EmbryoScope+は、世界的にも導入実績の多いタイムラプスインキュベーターで、 高解像度の多焦点撮影と安定した培養環境を両立し、AI解析システム「iDAScore®︎」と連携できる特長を持っています。

iDAScore®︎は、胚の発育過程のデータをAIが解析し、着床の可能性を数値化する評価指標の一つです。当院のデータにおいても、このスコアが高い胚ほど妊娠率が高いという結果が得られています。

もちろん、妊娠は胚の質だけで決まるものではなく、子宮環境やホルモン状態など多くの要因が関与します。しかしながら、少なくとも胚選択の一つの指標として、iDAScoreは有用であることが当院のデータからも示唆されています。

私たちは、形態評価・発育動態・AI解析によるスコアを総合的に判断し、最適と考えられる胚を選択しています。

最後に

タイムラプスは「成功を保証する魔法の機械」ではありません。

しかし、

・胚にやさしい培養環境

・より多くの情報に基づく胚選択

・客観的データの活用

という点において、不妊治療の質を高める重要な役割を担っています。

私たちは、機械のみに頼るのではなく、技術・経験・データを組み合わせることで、より良い培養環境を整えることを大切にしています。

タイムラプスインキュベーターは、患者さまの大切な受精卵の成長を見守る装置です。その小さな命の歩みを丁寧に観察し、最善の選択につなげるための一つの手段として、当院では活用しています。

 

これからも、科学的根拠と丁寧な培養環境をもとに皆さまの治療を支えてまいります。

 

 

培養室  野瀬                

最新のコラム一覧へ戻る