第35回 PGT-A(着床前胚染色体異数性検査)について
近年「PGT(着床前遺伝学的検査)」という言葉を耳にする機会が増えてきました。
PGTとは体外受精で得られた胚を、移植する前に遺伝学的検査を行う技術の総称です。
PGTには目的に応じていくつかの種類があります。
・PGT-A:胚の染色体の数に異常がないか(異数性)を調べる検査
・PGT-SR:ご夫婦のどちらかに染色体の構造異常(均衡型転座など)がある場合に、胚の染色体構造を調べる検査
・PGT-M:特定の遺伝性疾患が子に受け継がれる可能性がある場合に、その原因となる遺伝子変異を調べる検査
当院では現在、PGT-Aを実施しています。
そこで今回はPGT-Aはどんな検査なのかについてお話ししたいと思います。
PGT-Aの目的は?
PGT-Aは胚の染色体数に異常がないかを調べる検査で、移植する胚を選択する際の一つの指標として用いられます。
もう少し詳しく言うと、ヒトの染色体は22対44本の染色体と、2本の性染色体の計46本で構成されています。この染色体の数が多かったり、少なかったりした胚が「染色体異常」の胚ということになります。
染色体異常の胚は移植をしても着床しない、あるいは着床しても流産や死産してしまうことが多くなってしまいます。
そのため、検査をすることによって染色体数が正常な胚を移植し、流産率を下げ、妊娠率を上げようというのが主な目的になります。
しかしこの検査は、胚の細胞の一部を採取するという胚にとってとても侵襲的な操作を行うことに加え、費用も高額になるため全ての体外受精症例に実施するということは推奨されていません。
このことを踏まえて、現在PGT-Aは
過去に2回以上の体外受精の胚移植で妊娠が成立しなかった。
過去に2回以上の流死産を経験されている。
染色体異常胚の割合が増加してくるとされる年齢が35歳以上の方。
このような適応条件のもとに実施されています。
PGT-Aはどこを見ている?
PGT-Aでは胚盤胞まで発育した胚の一部を採取し、染色体を解析します。
ここで意外と知られていないのが、「どこの細胞を調べているか」という点です。
胚盤胞は大きく分けると、
・将来、赤ちゃんになる“内部細胞塊(ICM)“
・将来、胎盤などになる“栄養外胚葉(TE)”
から構成されています。
PGT-Aで採取するのは、主に栄養外胚葉(TE)の細胞です。
内部細胞塊(ICM)は将来赤ちゃんになる細胞群であるため、内部細胞塊(ICM)から採取してしまうと赤ちゃんになる細胞を直接失うことになり、発育能を下げる可能性があります。
一方、栄養外胚葉(TE)は将来胎盤になる細胞でたくさんの細胞があるため、数個程度採取しても影響が比較的小さいと考えられています。
つまり、PGT-Aは胚の一部から得られた情報をもとに評価を行う検査であり、胚全体を直接調べているわけではありません。

内部細胞塊(ICM)と栄養外胚葉(TE)は同じ?
内部細胞塊(ICM)から採取しなくて、赤ちゃんの染色体を調べられるの?と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
結果から言うと、内部細胞塊(ICM)と栄養外胚葉(TE)を比較した研究では、かなり高い一致率を示すものの、100%ではないのが現状です。
ここがPGT-Aの弱点になります。
栄養外胚葉(TE)が正常でも内部細胞塊(ICM)に異常がある、また検査した栄養外胚葉(TE)に異常があったが内部細胞塊(ICM)は正常だった、という可能性があります。
「PGT-Aの結果が正常だったのに流産してしまった。」
「PGT-Aの結果が正常ではなかったけど、移植してみたら元気な赤ちゃんが生まれた。」
というようなことが稀に起きますが、その答えの一部がこの内部細胞塊(ICM)と栄養外胚葉(TE)の不一致にあります。
もちろんPGT-Aは多くの研究によって有用性が示されている検査ではありますが、上記のことを踏まえて検査することが大切です。
培養室からお伝えしたいこと
PGT-Aは胚の全てがわかる検査ではありません。しかし、重要な情報を与えてくれる有用な検査です。
当院では患者様一人ひとりに適した治療を科学的根拠に基づいて適切に判断し、ご提供してまいります。不明な点や心配なことがありましたら診察時などにお気軽にご相談ください。
培養室 平石