第30回 【先進医療シリーズ②】 成熟した精子を選別する技術、PICSIについて
皆さんこんにちは。
朝晩の冷え込みが厳しくなると今年もあと少しだな、と感じる今日この頃です。
今月は先進医療シリーズ第2弾PICSIについてお話します。
PICSIとは
PICSI(Physiologic intracytoplasmic sperm injection:生理学的精子選択術)は成熟した精子がヒアルロン酸に結合するという特性を利用し、顕微授精(ICSI)を行う技術です。
通常、卵子とその周囲の細胞の複合体(卵丘細胞複合体)に含まれるヒアルロン酸と成熟した精子がもつヒアルロン酸受容体が結合し、精子がヒアルロン酸を溶かしながら透明帯を通過し、卵子と精子は受精します。
つまり、ヒアルロン酸と結合できる精子は受精する力をもつ成熟した精子だということです。
成熟した精子と未熟な精子のイメージです。

ICSIでは培養士が形態や、運動性が良好な精子を1匹選んで卵子に注入します。
ただし、目視だけでは形態や運動性が良好でも、精子内部のDNAの損傷の有無や成熟した精子かどうかは判断ができません。
ここで、成熟した精子の特性を利用することでICSIよりもさらに良好な精子を選択することができるのがPICSIというわけです。
また、ICSIとPICSIを比較したとき流産率が7.0%(ICSI群)、4.3%(PICSI群)でPICSI群にて有意に低くなるという結果がでています。
Physiological, hyaluronan-selected intracytoplasmic sperm injection for infertility treatment (HABSelect): a parallel, two-group, randomised trial Lancet. 2019 Feb 2;393(10170):416-422.
PICSI施行することで流産率の低下が期待されるということです。
PICSIの実際
ヒアルロン酸と結合した精子はどのように判別するかというと、ヒアルロン酸が含まれた培養液を用いてそこに含まれるヒアルロン酸と結合して精子が前進しなくなったことを確認します。
自分がPICSIを施行し形態良い、運動性も良い!と判断していざヒアルロン酸が含まれている培養液に精子を入れピタッ!と停止すると嬉しい気持ちになります(逆も然りですが…)
もちろんその後受精し、胚盤胞に発育、凍結、妊娠という結果に繋がり皆様に還元できることが一番の喜びです。
年末年始の忙しい中で培養士ブログに目を通していただきありがとうございます。
年末年始はゆっくりご自愛してよいお年をお迎えください。
2026年もよろしくお願いいたします。
培養士 森