Noah ART Clinic武蔵小杉(ノア・アートクリニック)

不妊治療コラム

不妊治療・検査

葉酸って、不妊の人はみんな飲んだ方がいいの?

なかなか赤ちゃんができないので、一念発起して最寄りの不妊クリニックへ。清潔そうだし、先生も優しそうだし、安心して治療を受けられそうだけど、最後に先生から「妊娠を考えているなら、葉酸が入った妊活用のサプリメントを飲んでおいた方が良いですよ」とのアドバイス。

葉酸が身体にいいことは、なんとなく聞いているし、妊娠したときに赤ちゃんの異常を少なくするかもしれないことも知っている。でも今までお薬はできるだけ飲まないようにしていたし、日本人には必要ない、っていうお医者さんもいるし・・・健康な人も飲んだ方がいいのかな?絶対安全なのかな?


 

健康でこれから妊娠する女性への葉酸サプリメントのすすめ~厚労省~

お薬やサプリメントは病気の人や、栄養が悪い人が飲むものである、という考え方があります。それ自体は間違っていませんし、むしろ取り過ぎると身体に悪いビタミンも確かにあります※1

ただ、葉酸だけは妊娠を考えている女性なら全員、最低限の量は服用すべきです。厚生労働省のホームページに、わかりやすい解説が載っていますが※2、1)葉酸は生まれてくる赤ちゃんがなる、「神経管閉鎖障害」というまれな病気を減らす効果があること、2)葉酸は野菜など葉っぱのある食べ物に含まれているが、それらの天然の葉酸は消化管から吸収されにくいので、吸収の良い合成のサプリメントからとる必要があること、が書かれています。

そのため「妊娠を計画している女性、妊娠の可能性がある女性及び妊娠初期の妊婦は、胎児の神経管閉鎖障害のリスク低減のために、通常の食品以外の食品に含まれる葉酸(狭義の葉酸)を400μg/日摂取することが望まれる」と結論されています。

神経管閉鎖障害って、どんな病気?

脳や、脊髄という身体の働きをまとめている神経を、「中枢」神経といいます。

この脳と脊髄がどうやってできてくるかというと、まず胎児の背中に神経になる細胞が薄く拡がり、その中央に縦にくぼみができるところから始まります(図1.a)。このくぼみが、頭とお尻のちょうど真ん中あたりで右と左の上がくっついて(図1.c)、管、あるいはトンネル状になります。くっつく部分は頭側、お尻側にどんどん拡がって、トンネルも頭の方、およびお尻の方に伸びていきます。最後に、頭と、お尻でトンネルが塞がっていない部分、いわば「出口」が最後に残りますが(図1.e)、この穴が塞がると完成です。

図1

お家で、餃子を作る時を想像してみてください。皆さんはそんなことはしないでしょうが、子どもが皮を真ん中からくっつけてしまったとします。お母さんは、なんとか餃子を完成させるために、真ん中でくっついたところから、慎重に右と、左にヒダヒダを作って餃子の皮を塞いでいき、最後に端っこを閉じて、やっと蒸すことができる状態になります(図2)。

図2

この、最後に端っこを閉じるべきところが閉じないのが、神経管閉鎖不全なのです。

餃子の端っこが左右にあるように、神経管欠損も頭側に起こる場合と、お尻側に起こる場合があります。脳ができるはずの頭側に起こると、「無脳症」という病気になり、お尻側に起こると「脊髄髄膜瘤」という病気になります。「無脳症」は、生きて生まれることができないので出生時の異常としては非常にまれですが、「脊髄髄膜瘤」は妊娠中に診断がつかないことが多く、生まれてきたときに足や泌尿器に関係する神経機能が悪くなり、歩行障害、排尿・排便障害等、深刻な症状を起こします。世界平均では、赤ちゃんの500人に1人(0.02%程度)はこの病気にかかると言われています。

本当に葉酸で神経管欠損は少なくなるの?日本人もみんな飲まなければならないの?

欧米では食生活の影響から、1980年代まで神経管閉鎖不全、特に脊髄髄膜瘤の子どもが生まれる確率が高かったのですが、パンやシリアルの原料である小麦粉に、直接合成した葉酸を添加する運動が1980年代におこり、脊髄髄膜瘤は激減しました。

一方1980年代までは出生の0.01〜0.02%と欧米より脊髄髄膜瘤の子どもが少なかった日本では、葉酸を補給する必要はあまりないといわれていました。ところが葉酸を飲むように指導されたのが2000年と遅かったことや、食生活の変化もあってか、現在では、脊髄髄膜瘤の発生率は欧米より高く、0.03〜0.04%と増加しています。日本では、欧米の小麦粉のようにみんなが必ず食べる食品に添加するのが難しい、ということも、脊髄髄膜瘤がなかなか減らない理由の一つです。

いつから飲めばいいの?

葉酸サプリメントは、妊娠の1ヶ月前より飲めば良いと言われています。ですから、何も知らないで葉酸サプリメントを飲まないまま妊娠した女性より、妊活をはじめて葉酸サプリメントを飲み、1ヶ月たってから妊娠した方の方が、「神経管欠損」の赤ちゃんができにくい、ともいえるわけです。
でも、妊活を始めたらできるだけ早く妊娠したいですよね。葉酸は水溶性のビタミンですので、よほど多量(1000-5000µg以上)に飲まない限り健康被害や副作用は出ないといわれています※3。そのため、最近では一日の摂取量を800µgと多くして、健康被害を出すことなく1ヶ月経ったら効果が出やすくするようにしている製剤も出ています。

飲み過ぎには気をつけて 
~サプリメントは1種類にしよう~

葉酸は、サプリメントで摂取した方が神経管欠損の子どもが生まれる確率は少なくなるのですが、飲み過ぎはかえって体調を崩したりすることもあると言われています。このことは、前述した厚労省のホームページの解説の最後のほうに、書いてありますね。
結論として、妊活を始めたら葉酸が400μg入っているサプリメントを、飲んでおくべきです。ただ、ビタミンは身体に良い効果を持っているだけでなく、取り過ぎるとかえって飲んでいる人に悪い影響を及ぼすので、2種類、3種類のサプリメントを飲むのはおすすめできないと思います。

 

葉酸の発見

さて、葉酸が健康に必要な成分であることを発見したのはLucy Wills(1888–1964)というイギリスの女性研究者です※4(図3)。

Lucy Wills – Wikipedia

(Lucy Wills/1888年5月10日-1964年4月26日)

彼女は、1920年代後半から1930年代初頭にかけてインドで「妊娠性大球性貧血」という病気に関する研究に携わり、貧しい妊婦にこの病気が多いこと、予防と治療の両方に、酵母に含まれる栄養因子が有効であることを発見しました。彼女が特定した栄養因子(彼女の名にちなんで、この物質は今でも「ウィルズ因子」と呼ばれることがあります)は、後に葉酸(葉酸の天然型)であることが解明されます。

Lucyはバーミンガム近郊の裕福な家に生まれました。父も、母も科学に強い興味があったようです※5。女性が教育を受けたり、医師や弁護士などの専門職に就く機会がほとんどない、という19世紀末頃までとは違いますが、このころはまだ、女性が学問をするということはイギリスでも珍しかった時代でした。しかし、彼女は幸いなことにバーミンガムの南にある、チェルトナム女子大学(Cheltenham College for Young Ladies)という学校に入学します。ここは当時としては画期的な、女性に最高水準の科学知識を教える数少ない大学で、Dorothea Bealeという意思強固な女性が長く校長の席にあり、大学の質を高く維持していました。Lucyが通っていたときは彼女の校長として最後の時代だったと思われます。

その後、Lucyはケンブリッジ大学ニューナム・カレッジに進学、優秀な成績で自然科学(植物学と地質学)の学位をとります。第一次世界大戦中に南アフリカで看護師として働いた経験を通して医学の道に目覚めた彼女は、イギリス初の女子医学校であるロンドン女子医学校を卒業した後、インドでの素晴らしい研究を行うことになります。基礎的な研究の素地を持った、医科学者の誕生です。

Lucyの才能や研究への熱意ももちろんですが、女性が学問をすることに理解のある家庭環境に加え、優れた教育と、研究の機会を天から授かった彼女の人生は、まさに「神に祝福されたもの」だったといえるでしょう。
独立心旺盛な彼女は、両親、兄弟姉妹、そしてその子どもたちととても親しく、また多くの友人に恵まれました。明るく熱心な教師、不屈の精神をもつハイカーかつスキーヤーであり、熱心な旅行家でもあり、自然を愛する、陽気で人を楽しませる人であったと追悼記事にあります。彼女の明るく開放的・リベラルな性格も、神様からのプレゼントだったとしたら、うらやましい限りですね。

参考文献

※1 VitAの過剰摂取と発がん
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOSG122O50S5A510C2000000/?msockid=308d93cfd2316c4f24238588d3696d19

※2 厚生労働省。葉酸とサプリメント ‐神経管閉鎖障害のリスク低減に対する効果。
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/food/e-05-002

※3厚生労働省。日本人の食事摂取基準。2025年
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_44138.html

※4 Lucy Wills. 
https://en.wikipedia.org/wiki/Lucy_Wills

※5 Lucy Wills – the life and research of an adventurous independent woman.
https://www.jameslindlibrary.org/articles/lucy-wills-1888-1964-the-life-and-research-of-an-adventurous-independent-woman/

不妊治療コラム一覧に戻る