Noah ART Clinic武蔵小杉(ノア・アートクリニック)

培養室コラム

第4回 顕微授精のはなし

新型コロナウィルスの感染拡大防止のための緊急事態宣言も出され、当院でも感染予防対策を実施しながらの診療となり、皆様にはご不便をおかけしておりますが、今しばらくご協力をよろしくお願い致します。

皆さんこんにちは、胚培養士の鈴木です。

 

さて、4回目になる今回のコラムではARTにおける重要な技術の一つである顕微授精について、項目ごとにもう少し詳しくお話していきたいと思います。

 

 

体外受精(振りかけ法)と顕微授精の違いとは?

顕微授精に対して一般の体外受精(振りかけ法)というものもありますが、どちらも体外で卵子と精子を受精させる方法を指します。

 

採卵手術によって得られた卵子は卵丘細胞というヒアルロン酸を多く含んだ細胞に包まれています。この卵丘細胞は卵子の発達、成熟、受精を助ける大切な働きを担っているのですが、一般の体外受精(振りかけ法)を行う場合はこの卵丘細胞に包まれたままの卵子と精子を一緒の培養液の中に入れて精子が自力で卵子の中まで泳いでいき受精するのを待ちます。

実は、精子は卵丘細胞の中を卵子に向かって泳いでいく過程を経て初めて卵子と受精できる能力を獲得できるようになるのです。

 

これに対して顕微授精は、卵丘細胞を取り除いた成熟卵子に一つの精子を吸った細いガラス管を刺すことにより直接精子を卵子の中に注入して受精させる方法をいいます。

振りかけ法とは異なり、卵丘細胞の中を泳ぐという工程がスキップされてしまうのでそのままの精子を卵子に注入しても受精には至りません。

そこで、顕微授精を行う場合は精子の尻尾の部分に傷をつけてから卵子の中に注入するという手順を踏みます。

この工程によって、精子からは卵子と受精するのに必要な因子が放出されるようになり受精が可能になります。この手順を精子の不動化処理といいます。

精子に傷をつけるというと何だか良くないような感じもしますが、顕微授精においてはこの不動化処理を確実に行うことが非常に重要なポイントとなります。


〈顕微授精に用いる精子の選び方は?〉

一般的な顕微授精では、約400倍の倍率下で形の良好な精子を選んで卵子に注入していますが、当院では光学顕微鏡の限界に近い1200倍という倍率下で精子を観察、選別して顕微授精に用いるIMSIという方法を採用しています。この方法によって、通常の顕微授精では確認できないようなより微細な精子の形態異常も選別して顕微授精に用いることが可能となっております。具体的には以下のように選別しており、異常精子を顕微授精に用いることは避けています。

 

〈どのような場合に顕微授精を行うの?〉

振りかけ法による体外受精を行う場合は、運動性の良好な精子がある程度の数必要となります。(ちなみに当院では、卵子と精子を一緒にする培養液中に約10万個の精子を入れています)よって、重度の男性不妊によって精子の数が少ない、もしくは運動精子の数が少ないなどの場合には医師と相談の上、顕微授精となります。

また、前回振りかけ法による体外受精を行った際に全く受精卵が得られなかった場合なども顕微授精の対象です。

 

〈顕微授精によるリスク等は?〉

顕微授精によって生まれた赤ちゃんが奇形児や先天異常児になる確率は現在のところ自然妊娠の赤ちゃんと差がないという報告が大勢を占めています。しかし、高度の男性不妊症で顕微授精となった場合、その赤ちゃんが男の子である場合は将来男性不妊となる可能性があることは示唆されています。

造精機能(精子を造る機能)に関連する遺伝子が男性のみが持つY染色体上にあるので、父親の男性不妊の原因が遺伝子上のものである場合は性染色体と共に男性不妊も赤ちゃんに継承される可能性があるためです。しかし、顕微授精が世界で初めて不妊治療の臨床で行われ妊娠出産症例が出てからまだ約30年ほどしか経過しておらず、長期的な追跡による出生児への顕微授精の影響などの調査はまだ十分ではありません。

 

 

ここまで顕微授精について色々お話してきましたが、この技術の誕生はそれまで男性不妊が原因で子供を持つことを諦めざるを得なかった患者様にとっては画期的な出来事となりました。しかし顕微授精もまた万能な技術というわけではなく、精子と卵子の出会いをほんの少しアシストしているだけに過ぎないというのが、私たち培養士が日々感じているところです。体外という卵子と精子にとっては厳しい環境のなか、少しでも彼ら彼女らへのストレスを少なくできるような培養業務をおこなうことが、私たちに最も求められていることのひとつだと考えて日々大切な胚と向き合っております。

 

それでは、次回のコラムでは無事に受精し成長していった胚がどのように凍結保存されたり融解されて移植に用いられたりするのかについてお話していきたいと思います。

 

最後までお付き合い頂きありがとうございました!

 

胚培養士 鈴木

最新のコラム一覧へ戻る

LINE予約 Web予約