Noah ART Clinic武蔵小杉(ノア・アートクリニック)

培養室コラム

第5回 受精卵を保存するには?

こんにちは。培養士の石黒です。

まだまだ新型コロナウイルスの感染拡大が止まらず不安な日々をお過ごしかと思います。外出を控えなければならない期間が続きますが、自宅で過ごす時間が増えたからこそ、新しい趣味を見つけたり、掃除をしたり、充実したおうち時間を過ごしていきたいですね。

 

さて、今回は受精卵の凍結と融解についてお話しします。

前回のコラム(第4回 顕微授精のはなし)でお話しした通り、採卵手術によって得られた卵子は、体外受精(振りかけ法)もしくは顕微授精で受精させ、受精卵はインキュベーターという装置の中で培養します。インキュベーターは温度や気相が細かく設定されており、女性の体内に近い環境が保たれています。

3~6日培養したのち、発育がよい受精卵を凍結保存します。当院では、培養3日目の初期胚といわれる状態、もしくは培養5~6日目の胚盤胞で凍結する場合の2通りあります。(コラム第3回参照)

 

凍結保存する際は、ただ冷凍庫に入れるわけではありません。専用の凍結保存液を用いて、超急速ガラス化保存法という方法で行います。

超急速ガラス化保存法は1999年に開発され、これまでに日本国内では10万症例以上に用いられています。極めて高い臨床的効果や優れた安全性が十分に証明されており、現在では不妊治療における凍結保存のスタンダードとして欧米のART(生殖補助医療)先進国を中心に、広く世界中で普及、利用されています。

 

超急速ガラス化保存法は、

①受精卵を凍結のダメージから保護する液に入れます。

②細胞内に液が行きわたったら、ガラス化液という液に受精卵を移動させます。

細胞内は90%が水分ですが、ガラス化液に入れることで浸透圧というものを利用し、その水分を脱水させます。

普通、水分を凍らせると氷の結晶ができて、物理的なダメージを受精卵にあたえてしまいますが、余分な水分を脱水させることでこれを防ぐことができます。

また、細胞のまわりの水分もガラス化液に置換されるので細胞の周りに氷の結晶ができてしまうことも防ぐことができます。

  • ③その後、受精卵をクライオトップという専用の容器に乗せて、液体窒素で一気に冷却します。

    このクライオトップに患者様のIDやお名前、受精卵の状態を記入し、一つ一つ判別できるようにしています。

  • 液体窒素は-196℃であり、この温度まで一気に冷却することで、受精卵が氷の結晶のできやすい温度にさらされる時間を短縮することができます。

     

    また-196℃の環境下では受精卵を構成する物質は動くことができません。そのため凍結した時の状態を維持したまま、半永久的に保存することが可能です。凍結している期間の間に受精卵がダメージを受け劣化していく、ということもありません。移植を行う当日まで、液体窒素の中でしっかりと凍結保存しております。

     

     

    移植の当日、凍結保存をしていた受精卵を融解します。

    融解をするにもただ液体窒素から出して室温においておけばいいのではなく、専用の融解液を用いて融解させます。

     

    ①まず、液体窒素の-196℃から37℃に温めておいた融解液の中にすばやく入れます。

    このように一気に温めることで融解による受精卵へのダメージや、氷の結晶の形成を防ぐことができます。

  • ②受精卵を別の溶液に移動させ、凍結保存する際に細胞内に満たした保護液を浸透圧を用いて除去し、水分と入れ替えていきます。

    しかし、受精卵に一気に水分が戻ってしまうと、細胞は急激に膨らんでしまいます。この体積の増加で細胞が壊れるのを防ぐために、浸透圧が少しずつ異なる溶液を使い、徐々に水分を戻していきます。

     

    以上のように融解した受精卵は、子宮に戻すまでインキュベーターの中で培養いたします。

     

     

    今回のコラムはいかがでしたでしょうか。

    凍結した受精卵は移植を行うその日まで責任をもって大切にお預かりいたしますので、安心して預けていただければと思います。

     

    また、当院に凍結胚(受精卵)が残っている患者様は保管期限が切れる前に、必ず保管延長または廃棄手続きをして下さいますよう、よろしくお願いいたします。

     

    では、次回のコラムも楽しみにしていて下さい。

     

     

     

    培養部 石黒

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