第21回 ほとんどの人が知らない?卵を管理する胚培養士の資格試験について
皆さんこんにちは。
例年よりも遅い梅雨入りにいよいよ夏の気配を感じますね。
6月のコラムは私たち゛胚培養士の資格゛についてお話したいと思います。
私自身は臨床検査技師の資格も有しており、国家試験の経験があります。
そんな私が今回胚培養士の試験を受け受けてみて、
・胚培養士の資格試験は具体的にどんな試験だったのか?
・臨床検査技師の資格を有する立場からみた胚培養士の資格に対する個人的な感想は?
についてまとめてみました。
また、この記事を通して、皆さんに胚培養士についてもっと知っていただけたらと思います。
胚培養士の資格とは?
胚培養士の資格は国家資格ではなく、認定資格です。
医師、看護師、臨床検査技師と異なり資格がなければその仕事ができないという制限はありませんが、その代わりに高い倫理観と幅広い知識や技術を有していなければなりません。
私たち胚培養士の資格は2つあります。
・日本卵子学会が認定する「生殖補助医療胚培養士」
・日本臨床エンブリオロジスト学会が認定する「臨床エンブリオロジスト」
※来年度より日本卵子学会に統一予定
特に「生殖補助医療胚培養士」の資格試験は毎年60%程度の合格率です。
実際に、ベテランの胚培養士だったとしても、しっかり勉強をしなければ不合格になることがあります。
どうしたら受験できるのか? ー意外と知らない受験前から始まっている戦いー
どちらの資格も受験するにあたって条件があります。
私が今回受験した生殖補助医療胚培養士の場合は
・生物関連の学部出身または看護師・臨床検査技師の資格を持っていること
・ART登録施設において1年以上の臨床実務経験を有すること
・日本卵子学会学術集会あるいは関連学会に1年以内に2回以上参加していること
などの条件があります。
エントリー(11月) 試験当日(4月)
書類作成と送付(12月~1月) 合格発表(5月)
毎年のことですが、年に1度の試験のために全国の胚培養士試験を受けたい人が受験者数定員160名の枠を目指して申し込みを行います。
そのため今回も1週間のエントリー期間が設けられているにも関わらず、数分で定員に達してしまいました。
エントリーを終えたら審査に必要な書類を揃えます。
書類の中でも特に大変だったのは自分が携わったARTの症例報告に関するものです。
症例報告というのは体外受精の治療を行っている症例に対してどのような判断を下し、どのような処置が行われたのかをまとめた報告書のことです。
もちろん、患者様の個人情報が特定されるような情報はすべて伏せてあります。
私も終業後カルテとにらめっこしながら作成しました。
作成しては上司に添削してもらい、時には質問を投げかけられ答えられないときは自分自身に悔しくなり勉強をする毎日でした。
すべての書類を送付し、あとは試験を受けるだけ!
というところまで来たら、当日までひたすら勉強するのみです。
試験勉強 ー卵と精子と向き合った数か月間ー
試験は日本卵子学会の「生殖補助医療(ART)胚培養士の理論と実際」から出題されます。
出題範囲は教科書1冊なのですが、内容が非常に濃密で難解です。
ヒト以外の動物はもちろん、生殖関係の細胞や遺伝子、タンパク質のことから法律や倫理的思考、ドクターの領域と範囲も広く、理解できないところは他の著書で調べたり資格を有している先輩に聞いたりと先に進むのが大変でした。
また、ありがちな試験の過去問題集がないことから勉強のアウトプットや試験傾向が掴みにくいのもこの試験が難しいといわれる要因だと思います。
私の場合は寝ても覚めても頭の中は常に業務と試験のことでいっぱい。
―ついには夢の中にまで・・・
試験当日 ー8ビートを刻む心臓ー
試験は1日目筆記試験、2日目面接の二日間です。
筆記試験は基礎問題(40問)、臨床問題(60問)マークシート形式です。
内容は先ほどあげた教科書が出題範囲となりますが、教科書の隅から隅まで、理解し記憶していたとしても、頭を悩ませる問題が多い印象でした。
難しい!!!
面接は面接官3人に対して受験生1人で、基礎(教科書的な内容)、臨床(臨床業務)、倫理の内容を質問されます。
過去に試験を受けた先輩や友人からどんなことを聞かれたかを教えてもらい、ある程度の質問に答えられるようにしていましたが、予想外の質問内容もあり緊張しながら臨んだ面接でした。
合格発表
合否は約一か月後の日本卵子学会学術大会で張り出されます。
私は今回学会参加された先輩に写真を送ってもらい合格を確認しました!
それから資格試験の認定証が送られてきたのがさらに約一か月後、手元に届いた認定証を見て合格を実感することができました。
試験を終えて ー生殖補助医療胚培養士の名に恥じぬようにー
私は臨床検査技師の国家資格を持っていますが、その時の試験勉強よりも働きながら胚培養士の試験勉強をすることは大変だったと思います。
試験問題は答えが正しいか間違っているかだけなく一つ一つの選択肢の内容を正しく理解できていないと解けない問題がほとんどでした。
また、保険診療やクローン技術に関する問題、近年の体外受精の割合など教科書だけでなく、どんどん新しくなっていくARTに関する様々な情報にアンテナを張っていないと解けない問題は特に難しく感じました。
ですが、この試験を通して知識を増やし、学んだことを業務に活かすことでさらに理解が深まっていることを感じ、皆様に還元することのできる胚培養士という仕事に改めてやりがいと重みを感じました。
生殖補助医療胚培養士として今まで以上に皆様の笑顔を増やせるようにお手伝いをさせていただきたいと思います。
長くなりましたが今回は私たち胚培養士にスポットを当ててお送りいたしました。
これから暑い日が続きますのでお体に気を付けて過ごしてくださいね。
培養室 森