第23回 【第42回 日本受精着床学会 総会・学術講演会】参加レポート
皆さんこんにちは。
寒い日が増え、金木犀の香りに秋を感じるこの頃いかがお過ごしですか?
10月の培養士ブログは今年も美味しい焼き芋がたくさん食べられますように…と願っている森が担当します。
今回は8月に大阪で開催された、『日本受精着床学会 総会・学術講演会』に参加してきたので学会レポートをお送りします。
今回の学会レポートは以下の内容に関して詳しくお話していきます。
・興味深かった受精に関する発表演題について
・当院の培養室スタッフ1名が行った口頭発表に関して
新たに加わった受精反応! 2.1PNとは?
前核(PN)という言葉を耳にしたことはありますか?
受精に関して解説している記事はこちら↓↓
受精の反応とは簡単に言うと、精子由来の前核と卵子由来の前核、すなわち2つのPNが出現していることです。
前核が3つ以上の多前核胚は多くが染色体異常のため残念ながら移植の対象となりません。
ですが、micro PNと呼ばれるとても小さなPNが出現した胚(2.1PN胚)を凍結融解胚移植し、出産に至った例があります。
以前は多前核胚として移植対象外の胚として扱われていましたが、PGT-A解析の結果、二倍体のものが多く移植後に出産例もあるため移植対象胚になっているのです。
当院では学会や論文で発表されたデータを遵守し、micro PNの大きさを測定して2.1PN胚だと判定できたものは凍結しています。
下の図は2PN(正常受精)とmicroPNが出現した2.1PNの胚です。
この発表では凍結融解胚移植した2.1PN胚のmicroPNの大きさを計測しました。
次にmicroPNの直径によって大きさを3つのグループに分けたところ、胚盤胞や良好な胚盤胞へ発育が進む確率に有意差はないとのことでした。
microPNが小さければ小さいほど良い…というわけでもないようですね。
また、2.1PN胚の胚が成長する確率はcIVF(ふりかけ法)よりもICSI(顕微授精)の方が高く、胚盤胞に成長する確率の差はありませんが、より良好な胚盤胞へ成長する確率はICSI群の方が高かったそうです。
受精方法の違いによって差が生まれることもそうですがまだまだmicro PNは不明なことが多く、これから解明されることもあるかもしれません。
培養士の技術力によって卵子に大きく影響を与える裸化ってなに?
当院培養士による発表は「ストリッパーによる裸化処理が培養成績に影響を与えるか?施行者ごとの比較評価と改善法」です。
国内の多くの施設において、卵子や胚の操作を行う際、培養士はマウスピースという口にくわえて呼気で操作するデバイスが用いられています。
当院ではコロナ禍の頃より、衛生面や呼気による卵子や胚への影響を考え、マウスピースではなく海外で主流なストリッパーというペン型のデバイスを用いて卵子や胚の操作を行っています。
裸化処理は文字通り、採卵後の卵子の周りに付いている細胞を剥がして卵子を裸にする作業です。
顆粒膜細胞がついたままだと顕微授精をすることができませんので、顕微授精前に必ず行う必要があります。
採卵後の裸化処理の様子をイラストにしてみました。
何度もやさ~~しく吸い吐きを繰り返すことで卵子の周りに付着している顆粒膜細胞が剝がれるのです。
当院の発表はこのストリッパーでの胚の裸化作業が行う人の手技によって培養成績に影響を与えるかを調べたものです。
当院では月ごとに施行者ごとの培養成績を出しており、成績が低かった施行者にはフィードバックと成績向上のため指導を行っています。
今回、裸化処理の成績が低かったスタッフに指導をした結果、指導前に比べ指導後で正常に受精する確率が向上し、胚盤胞に成長する確率が改善しました。
裸化処理は手技によって培養成績に影響すること、改善できることがわかりました。
裸化処理が卵に与える影響は目に見えるわけではありません。
だからこそどのような影響があるかを考えながら胚にストレスを与えないように操作をする必要があります。
今回の発表後、ストリッパーを扱っている施設が少ないこともあり他施設の培養士の方々は興味深く質問をして下さいました。
質問内容から、よりストレスを与えない裸化をするにはどうすれば良いかを考えさせられ、終わりのない技術の向上に気持ちが引き締まりました。
今回は学会レポートをお送りしました。
また次回、今度は少し暖かくなった頃でしょうか、培養士ブログでお会いしましょう。
暖かくして、美味しいものを沢山食べて素敵な秋をお過ごし下さい!
森