第25回 IFFS2025・JSRM70に参加してきました!
皆さんこんにちは 培養室の野瀬です。
桜の季節が過ぎ、木々の緑も青々としてきました。
時折夏日が混じるような暑い日があると、夏がもうすぐそこまで来ているような、そんな気がします。
先月、東京国際フォーラムにて開催された日本生殖医学会(Japan Society for Reproductive Medicine)・国際生殖医学会(International Federation of Fertility Societies)に参加してきました。
今回の培養士コラムでは、その模様をお伝えしたいと思います。
現地の様子
通常、JSRMは11月頃に開催されますが、今年は国際学会であるIFFSとの合同開催のため、4月の開催となりました。私自身、国際学会への参加が初めてであったため、どのような雰囲気なのかと期待を膨らませて参加しました。会場に到着するやいなや、その人の多さに圧倒され、まるで海外に来たかのような雰囲気でした。企業による展示ブースも国際学会規模でとても広く、手の込んだ作りになっていたのも圧巻で、聴講の合間もとても楽しめました。
JSRMが70周年という節目でもあり、またIFFSの日本開催が実に54年ぶりということも相まって、盛り上がりは想像以上のものでした。
国際学会参加にあたり、1点懸念がありました。それは言語の壁です。
IFFSは英語での発表のため、聴講したい口頭発表もきちんと理解できるか不安がありました。
ですが、実際会場では通訳者の方による日英同時通訳や、アプリを使用したリアルタイム翻訳機能(多言語選択可能でした!)の提供があり、とても助かりました。
AI技術の応用
リアルタイム翻訳機能を可能にしているのがAI技術ですが、生殖補助医療の分野でも近年その技術を応用したシステムが構築され、広く臨床で活用されています。
当院ではタイムラプスモニタリングシステムを導入していますが、ここにもAI技術が搭載されています。
<タイムラプスモニタリングシステムとは>
培養器の1種。従来の胚の観察では、培養器から胚を取り出して観察を行っていたため、胚がストレスを受ける可能性があった。しかしこのタイムラプスでは、内蔵しているカメラが一定間隔で写真を撮ることで、培養器から出すことなく胚の観察が可能となり、胚へのストレスを最小限にした。それにより胚発育の向上が期待されている。さらに、今まで判定できなかった胚の異常や成長スピードなども分かるようになった。AI技術による分析評価が加わることで、より多角的に妊娠する可能性が高い胚を選ぶことが可能となっている。
今回の学会でも、AI技術に関する発表がいくつかありましたので、そのうちの1つをご紹介します。
良好精子自動選別システム
顕微授精では我々培養士が卵子に入れていく精子を1個選んでいきますが、精子選別では以下のポイントを重視しています。
・運動性(前進しているか、動きは悪くないか等)
・形態(大きさは正常か、頭部に空胞はないか等)
良好精子を選ぶことができるようになるまでには多くの時間を費やし、見る目を養っていく必要があるため、培養士の技術の中でも難易度が高いです。そんな精子選別にAI技術を用いてサポートしてくれるシステムでは、顕微鏡下で精子を観察し、リアルタイムに解析・運動性パラメーターの高い精子を自動検出し、さらに追跡までしてくれる機能がついています。熟練の培養士による顕微授精の結果と比較しても、そのシステムによって選出された精子による顕微授精の結果は受精率や胚盤胞形成率が良好で遜色なく、実際に臨床で応用している施設の結果も同様でした。さらに臨床応用している施設では、培養士のパフォーマンスが上がったことで顕微授精にかかる時間の短縮・技術の一定化が可能となり、ラボ全体の成績も上がったとのことでした。
今回発表があったシステムでは、精子の運動性に着目していましたが、他にも精子のDNA断片化指数(DFI)をAIに学習させて精子選別に役立てようとしているシステムやより多くの正倍数体の特定を可能とするPGT-A解析への応用等もあり、AI技術がラボワークの手助けとなる場面が多くなりそうです。
発表されていた海外の培養士の先生の言葉が印象的でした。
「AIは進歩しているが、培養士にとって代わるものではない。AIは自動化や効率化をはかるが、培養士による細やかな作業はAIでは再現できない。繊細な作業はヒトならではの技術だ。」(意訳)
AIの脅威に将来的に培養士が必要ではなくなる可能性を危惧していましたが、この言葉を聞いて安心したと同時に、日々の技術習得・向上・維持を怠らず、AIをうまく活用していくことが大切だなと感じました。
最後に
各国の医師や培養士、研究者など参加者が質疑応答で活発に議論している姿や、発表後に情報を交換しあっている姿を見て、とても刺激を受ける良い機会となりました。国際学会ならではの熱気に私自身感化されました。(学会発表や英語の勉強も頑張ろうと思った次第です…!)
今後も多くの学会に参加し、発表も行っていき、新しい知見に触れて、そこで得た情報を臨床に還元していきたいと思っています。