不妊教室開催に際してのごあいさつ
2023年4月から、Noah ART Clinic武蔵小杉で診療している久慈と申します。
私が医師になったのは1982年、日本において体外受精ではじめて子どもが生まれる1年前です。
外国ではすでに体外受精や、受精卵・卵子の凍結保存で子どもが生まれ、体外受精は新しい産婦人科の分野として夢だけが広がっていた状況でした。
ただ、そのころの成功率は今よりかなり低く、留学から帰った1989年、先輩医師に「体外受精で子どもが生まれるのは宝くじに当たるようなものだから」と言われたのが、記憶に残っています。
体外受精が最初普及しなかったのは、受精卵の培養法、使用する培養液、受精卵の凍結の仕方、すべてが各病院で手作りだったからでした。
いまではどれも、適当な会社にお願いすれば何も考えなくても手に入るものばかりですが、たとえば培養液も実験で使う試薬を天秤で量り、特殊な水と混ぜ合わせて自分で作りました。
作った培養液が本当にヒトで有効かどうかも、やはり自分で採取したマウスの卵を使って、テストするしかない時代でした。
ただ、そういう発展途上の時代から、現在の最先端の時代まで、ずっと体外受精や不妊治療に携わったことは、逆に考えるととても幸運だったと思います。
動物の体外受精の受精率や分割率、胚盤胞発生率がどういうものかを、自分で何度も実験して確かめることができましたし、作った液を使ってマウスの受精卵を様々な方法で凍結したり、顕微授精や受精卵の遺伝子診断を行うこともできました。
これに加えて、体外受精あけぼのの時代から、どのような治療が試みられてきたのか、大学に在籍しながら学会で逐一見させていただくこともできました。
その中には、あっという間に普及した顕微授精などの技術がある一方で、昔から行われ、自分たちも試してみたけれどいつまでたっても評価が定まらない技術もあることもわかりました。
現代は、体外受精を含む不妊治療が当たり前の医療になったと同時に、様々な情報が氾濫してどれが自分に必要な情報なのか、とてもわかりにくくなっている時代だと思います。
一方で不妊が心配、あるいは不妊治療を受けるご夫婦は増え続けており、国が2021年に実施した調査では、不妊を心配したことがあるご夫婦の割合は39.2%、検査・治療経験があるご夫婦の割合は22.7%(4.4 組に1組)となっています。
そこでNoah ART Clinic武蔵小杉では、病院に行ったほうがよいか迷っている、そろそろ不妊の検査をしようかどうか考えている方を中心に、不妊教室を定期的に開催することにいたしました。
当院を受診していない方でももちろん結構ですので、どうぞお気軽にご参加ください。