体外受精ってどのくらいの人が妊娠するの?どんな治療?
体外受精ってどのくらいの人が妊娠するの?どんな治療?
~体外受精以外の治療との違い~
不妊の治療を始めた方にとって「体外受精」はなんだか大変で、ちょっと怖い印象がある治療かもしれません。
一方、不妊治療を数ヶ月行ってもなかなか結果の出ないご夫婦は、選択のひとつとして体外受精を考えていらっしゃるでしょう。
でも
- いつ決断すべきなのか
- なぜ決断しなければならないのか
- 自分たちに本当にあった治療なのか
- 本当にそんなに確率が高いのか?
などという疑問が出てくると思います。
たしかにこの治療は妊娠率が高く、いまでは日本で出産する人の12人に1人は体外受精で赤ちゃんを出産しているほど、普通の治療になってきました
今回は体外受精が何をしているのか、お話します。
体外受精は「人工的に精子と卵子を受精する治療」です
体外受精は「女性の身体の中では精子と卵子が行き会っていないから妊娠しない人」に対して、「人工的に精子と卵子を一緒にすること(受精)ができる治療」です。
図1.検査ではわからない不妊原因
図1を見てもらえばわかると思いますが、精子は膣の中に出てから、自分の力と、子宮の蠕動で卵管のところまでいかなければなりません(「精子の移動と輸送」)。
その後、卵子と一緒になるためには卵子の周囲にある細胞や卵子を包むカラ(透明帯)を通り抜けなければなりません(「精子の顆粒膜細胞・透明帯通過」)。
卵子の方も、精子が待っている卵管に入るためには、排卵してから卵管にキャッチしてもらう必要があることは、第四回のコラムでもお話しました(「卵管の卵子取り込み」)。
↓こちらのコラムも併せてご覧ください。
このどこかひとつでもうまくいかないと、元気な精子と元気な卵子があっても、妊娠することはできません(図1)。
ところが、この三つの原因は、その力が保たれているかが検査(卵管検査や精液検査)ではわからないのです。
「検査で異常がない」カップルは人工授精の初回妊娠率が高い
クリニックでご夫婦を診察していると、体外受精へ進むご夫婦の少なくとも6-7割は「検査では異常がない」(原因不明不妊といいます)、でもタイミングや人工授精では妊娠しなかったカップルです。
「『検査で異常がない』のに妊娠できないのは子宮に異常があるからだ」と考えたくなる方もいると思いますが、もしそうであれば体外受精をしても、子宮が受精卵を受け付けないのでやはりなかなか妊娠しないはずです(図2)。
一方「検査で異常がない」カップルに体外受精したときの初回の妊娠率は少なくとも30%を超え、とても高いのです。
受精をさせれば妊娠する方がとても多いことから「検査で異常がない」ということは、前述したような「検査ではわからない原因」があって、身体の中で精子と卵子が一緒になっていない、つまり「受精が起こっていないので妊娠できない」方が多い、と考えられます。
ですから、人工的に体の外で精子と卵子を一緒にしてしまえば、もともと元気な精子と卵子ですから、すぐに妊娠してしまうわけです。
「卵子と精子が元気か」を見ることができる「体外受精」
さらに体外受精にはもうひとつ、「卵子と精子の力を見ることができる」という大きな長所があります。
現在の体外受精法は、精子と卵子を受精させてから5日間ほど身体の外で育てますが、この間、卵子が元気よく育っているかを確認することができるのです。
「同じプランター」「同じ土と水やり」で受精卵を育てます
小さかったころ、プランターに種まきをして花を咲かせたことが、みなさんあると思います。
本に書いてある時間通りに芽が出て、双葉がでれば、その後花が咲くのが期待できます。
図2. 受精卵の力
でも、いつまでも芽が出ない、あるいは双葉になる時間が遅すぎる、などの異常があれば、種か、周りの土か、どちらかに異常があることが考えられます。
ここで、土や水遣りは全く同じである、ひとつのプランターに五つまいた種のうち、一つだけ芽が出なかったらどうでしょう(図2)。
これは種のせいだ、と思いませんか?
クリニックでは一日に何人もの患者さんの受精卵を同じ培養液で育てています。つまり、同じ鉢に種をまいているのです。
「Aさんの受精卵は元気に育つのに、Bさんの受精卵は育たない」となれば、これは土(培養液や環境)のせいではなく、種(受精卵)の力が足りない、と言うことになりますね。
より多くの方に受精の可能性を提供できる体外受精
体外受精は、第一に「受精を起こすことができる」ということで、それまで妊娠できなかった方の多くに、妊娠・出産というプレゼントを与えることができます。
そして第二に、最初の体外受精でプレゼントがたとえなかったとしても「他の方と比べて受精卵が赤ちゃんへと育つ力が強かったかどうか」を見ることができるのです。
もし、受精卵の力が足りなかったときには、医師と一緒に「では精子と卵子のどちらに問題がありそうか、力を上げるにはどうしたら良いか」を考えることになります。
培養液の歴史について
余談ですが、実はこのプランターの土(培養液)が安定してきたのは比較的最近です。
体外受精の培養液が市販されるようになったのは2000年頃で、それまでは各病院・クリニックは自分で培養液を作っていました。
また、このころ培養液を作るのに使用していたのは、皆さんが昔化学の実験で使っていたような「塩化ナトリウム」とか「リン酸カリウム」とかの粉の成分で、これをできるだけ純粋にした水に溶かして使っていました。
すべての成分は、会社や作った日時によって少しずつ受精卵への影響が違っています。
ちょうど、毎回違う店から買った成分を混ぜ合わせて土をつくり、毎回違う店から買った水を使って、花を育てていた様な状態でした。
特に注意をはらっていたのは「水」で、もともとなんでも溶かしてしまう液体から、どうやって不純物を除くか、様々な方法を試していたものです。
なんだか、お酒を造っているみたいですね。
培養液は、受精卵がその中から酸素を受け取って呼吸をし、そこに入っている栄養だけを使って育つわけですから、発育はすべてこれにかかっています。
「食べ物や酸素が足りないから、外に出て買ってくる」「外の新鮮な空気を吸ってくる」と言うわけには行きませんので、ある時期に急に妊娠率が落ちたり、良くなったり、ということが頻繁に起こっていました。
いまでは、何10トンと大量に作った培養液を、あらかじめ動物の卵子などがちゃんと育つかどうかを確認して使っているため、流通している培養液は安心して使えるようになっています。