胚盤胞(はいばんほう)と胚のグレードと評価
採卵した後に、育った胚について医師が説明するとき、「4AAでとてもいい胚盤胞ですよ」とか、「3BCであまりグレードは高くありませんが、妊娠する可能性はあります」等と説明を受けたことがあると思います。
学校の通知表のようですから、Aが良さそうなのはわかるけど、最初の数字は何?そもそも胚盤胞ってどんなもの?少し、もやもやします。
胚盤胞は受精卵の生育段階のひとつです
胚盤胞というのは、受精卵が育っていく段階のひとつです(図1)。
受精後の受精卵の発育について
図1.受精卵の発育(体外受精)
受精卵は、前核期(採卵翌日、+1日)のあと、細胞が二つに分かれ、それぞれが二つずつに分かれて四つになり(+2日)、さらに同様に8つ、16個、と細胞の数が増えていきます。
このとき、受精卵は細胞の数を増やすことに夢中で、自分の大きさを大きくすることはありません。
従って、卵子を保護していると言われる透明帯というカラの大きさは、受精してから全く変わりません。
しかし数十個の細胞になったとき、急に外側の細胞が隣同士でくっついて、細胞の形もやや扁平になり、外から水が入って来られないようにします。
いままで集合したイクラの卵のようだったものが、急にサッカーボールになった感じです。
その後この外側の細胞は、サッカーボールの内側に水をためて、内側にあった残りの細胞は一カ所にきちんと固まっていきます。
この水がたまった受精卵が「胚盤胞」(はいばんほう)と呼ばれるものです。
体外受精では、通常この胚盤胞になった段階で受精卵を子宮に戻します。
採卵してから、約5日で胚盤胞になるのが普通ですが、6日目、7日目に遅れて胚盤胞になる受精卵もあります。
胚盤胞の構造
胚盤胞の構造は、図2のようになっています。
図2.胚盤胞の構造
一番外側の透明帯というカラの中で、胎盤になる細胞(栄養膜細胞といいます)が互いにくっついて風船のような形になり、その内側の一部分に赤ちゃんになる細胞の塊(内細胞塊といいます)が張り付いています。
右上の図のように、袋に入ったサッカーボールの内側の一部分に、赤ちゃんがしがみついている様な感じでしょうか。
栄養膜細胞の外側、透明帯との間は「受精卵を取り囲む隙間」という意味で「囲卵腔(いらんくう)」と呼び、液体で満たされています。
また、栄養膜細胞で囲まれた、サッカーボールの内側の部分は胞胚腔(ほうはいくう:胚盤胞の別名を「胞胚」といい、その内側になる空間なのでこう呼ばれます)と呼び、ここにも液体がたまっています。
外側の栄養膜細胞は、隣の栄養膜細胞としっかりくっついて壁を作り、内側の水が漏れないようにします。
同時に栄養膜細胞は水を胞胚腔にどんどんためていくのでその結果、栄養膜細胞は風船のように膨らんでいきます。
サッカーボールのそれぞれの部分をしっかり縫い合わせると同時に、空気をどんどん中に送り込んで、膨らんでいくイメージです。
胚盤胞の成長
胚盤胞の成長段階を示したものが図3です。
図3.胚盤胞の成長(class)
最初は、水もあまりたまっていないのですが(class1)、次第にたまった水が多くなります(class2)。
ですがclass2まででは、まだ胚盤胞や透明帯の大きさは変わっていませんし、囲卵腔もあります。
栄養膜細胞と透明帯の間に、隙間があるのが分かります。
ところがさらに胞胚腔に水がたまっていくと、風船のように胚盤胞が膨らんでいき、その結果透明帯の中が胚盤胞でいっぱいになって、囲卵腔がなくなってしまいます(class3)。
さらに水がたまって膨らんだ胚盤胞が透明帯を内側から圧迫するようになると、透明帯は次第に薄く引き延ばされていき、透明帯の直径は受精した時より大きくなります(「拡張」)。
この受精卵を、「拡張胚盤胞」といいます(class4)。
弾力のある透明帯を薄く引き伸ばすほどの力を加えるには、胚盤胞の水をためる力、細胞同士がくっつく力の両方ともが十分強くなっている必要があるので、拡張が起こった受精卵は成長する力がかなり強い受精卵、ということになります。
さらに発生が進むと、透明帯は胚盤胞の力に負けて裂けてしまい(class5)、その裂け目から胚盤胞が一部、外に顔を出します。
それでもまだ培養を続けると、胚盤胞は完全に透明帯から抜け出て、外に出てしまいます(class6)。これを孵化(ハッチング)と呼んでいます。
体外で受精卵を育てているときに見られるこの現象が、体内でいつも起こっているかははっきりしていませんが(子宮の中では透明帯は溶けてしまうという考え方もあります)、少なくとも裂け目を作るほど強い力を持つ受精卵であるとはいえるでしょう。
一方、元気でない栄養膜細胞では図2の「くっつく力」が弱くなるために、細胞と細胞の間から水が漏れてしまって、元気な受精卵で起こる「拡張」ができなくなります。
図4.拡張できない胚盤胞
風船に穴が開いている場合、いくら空気を吹き込んでも膨らまないのと同じです。
その結果胚盤胞全体も大きくならず、透明帯も元の厚さのままで、薄くなりません。
胚盤胞が元気かどうかの評価基準
囲卵腔がなくなったり、透明帯が薄くなって直径が大きくなったりすることは顕微鏡で簡単に確認できますし、「拡張」は強い力が必要なので胚盤胞の元気さの確かな指標になります。
一方、内細胞塊も十分に分裂できないと数が増えず、「細胞のかたまりのボリューム(大きさ)が大きくならない」という現象が起こります。
そこで受精卵、特に胚盤胞の元気さを、
- 受精卵が大きくなっているかどうか
class1から6、6が一番進んでいる状態 - 内側の細胞が元気に分裂して十分な数と大きさになっているかどうか
ABCの3段階、Aがもっとも元気に分裂して、細胞の塊が大きくなっている状態 - 外側の栄養膜細胞が十分分裂しているかどうか
ABCの3段階、Aがもっとも外側の細胞の数が多く、厚みがある状態
で評価して、この順番に並べて表しています。(図5)。
図5.胚盤胞のgrade(class4の場合)
最初の数字が大きいほど胚盤胞は大きくなっており、また二番目と三番目のアルファベットがAに近いほど、妊娠しやすい受精卵と考えられており、実際妊娠率も高くなっています。
つまり拡張胚盤胞のなかでは、図4の右上の4AAが最もよい評価、元気で赤ちゃんになりやすい、と考えられます。
ただし、同じ4AAの受精卵でも、5日目に4AAになった場合と、6日目になった場合では、5日目になった方が妊娠率は一般に高くなります。
6日目に遅れて4AAになった受精卵は、5日目に4AAなった受精卵から1日遅れて同じ状態になっているので、大きくなるのに時間がかかっている分、育つ力がやや弱い、ということになります。
評価が3ACであれば、囲卵腔がなくなるくらい胚盤胞は膨らんでいるけれどもまだ透明帯は薄くなっておらず、内細胞塊は十分な大きさがあり、栄養膜細胞の数は少なくて薄い、となって、栄養膜細胞の力がそれほど強くなさそう、となります。
染色体異常の判断の目安にはならない
ちなみに、受精卵の着床しやすさには関係があるこの形態の評価が、受精卵の染色体異常のある/なしを判別できるかについては、あまりはっきりした結論が出ていません。
実際4AAの受精卵であっても、流産や、染色体異常と言うことはありますし、3BCでもまったく正常の赤ちゃんが生まれてくる場合もあるのです。
胚盤胞の関連ページ
当クリニック胚培養士によるコラムでも胚盤胞に触れています。
培養士目線の記事はまた違った切り口で説明しておりますので、両方の記事をご覧いただくと、さらにご理解を深めていただけるかと思います。