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みんなはどのくらいで妊娠しているの? ~不妊症の診断と病院の受診時期~

不妊症かもしれないと病院に行くとき、ほぼ100%の方が自分のどこかが悪いかどうかもわからないし、診療は何をするのかわからないのでとても不安だと思います。

そこでこのブログでは、なるべく多くの方に理解していただけるように注意して、不妊の検査や治療についてお話ししてみようと思います。

子作りからどのぐらいで妊娠しているかのデータ

「不妊症」という言葉はよく耳にしますが、「私達は、すぐできたよ」と言っているお友達やご家族は、いったい子作りを始めてどのくらいで妊娠しているのでしょう?

少し古い文献ですが、健康な女性が結婚して子作り(避妊しないセックス)を開始してからの周期あたりの妊娠率を調べた1996年発表のデータがあります。

女性の平均年齢30.6歳(23-37歳)、男性の平均年齢32歳(20-51歳)の、医師が電話で聞く限り特別な病気のないニューヨークのカップルにボランティアになってもらって、周期当たりの妊娠率と流産率を調べたものです。

これによれば1周期目と2周期目はそれぞれ30%前後とかなり高いのですが、3周期目には17%、6周期目で8%と10%を切り、10周期目以降は5%以下となっています。

さすがに10周期を超えたら妊娠しない可能性が高く、12か月を一応「不妊症」とした定義にも、符合するデータです。

データを実際の妊娠率の例に当てはめてみます

では、ちょっと見方を変えてみましょう。以下の図をご覧ください。

 

周期ごとの妊娠率と不妊症*である確率

妊娠する人数
不妊症の確率=20%
10x0.3=3人
2/7=28%
7x0.3=2.1人
2/5=40%
5x0.17=0.85人
2/4=50%

  *不妊症:1年以上妊娠しようと思っても子供ができない状態

 

仲のいい、結婚したお友達があなたを含めて10人いたとします。上記のデータをもとに概算すると、そのうち3人は妊娠を試みてから1周期目に、2人は2周期目(3人ではなく、1周期目でできなかった7人の30%で、2.1人、約2人)に妊娠することになります。

言い方を変えると10人のうち5人は子作りを始めてから2周期目までに妊娠が成立しているのです。次の3周期目も、妊娠する方は1人くらい(5人のうち17%、0.85人)いらっしゃいますから、10人のうち6人は3ヶ月の間に妊娠して、ここまでで妊娠しない方は4人となります。

一方で、一般に不妊症の確率は5人に一人くらいといわれています。

実際、1年間たっても妊娠が成立しなかった方はこの研究でも17.5%いらっしゃいました。

10人のお友達のうち2人くらいは、もともと残念ながら治療しなければ妊娠できないのです。

もしあなた方お二人が3周期子作りをしても妊娠しない4人になってしまった場合、不妊症である危険性は4人に2人、約50%となります。

不妊症である危険性が、かなり高くなってしまいました。

 

実際30歳以下の方でも、3周期以上妊娠のチャンスがあったのに反応が出ていない場合、その後タイミングをとっても妊娠せず、結局通水や人工授精が必要になる方がかなり多くいらっしゃいます。

病院に相談するタイミングは?

このことから女性の年齢が35歳位以上の場合など、病院に行かず待っている間に卵巣の力が落ちて体外受精でも妊娠しなくなる危険性が高い場合などには、不妊症である危険性が高くなる3周期以降、病院で相談することをお勧めします。

一方でもちろん12ヶ月目、あるいはこれ以降に妊娠するカップルも(非常に少数ですが)いらっしゃいます。

いままでの説明では、どうしてこのようなカップルがいらっしゃるのか不思議に思われるでしょうが、次回にその理由の一つをお話ししたいと思います。

「3周期」は様々な判断にも大切です

さらにこの3周期は、不妊かどうかだけではなく、ある不妊治療が有効かどうか判断するときにも使用できる数字です。

例えば、通水や卵管造影検査をした後、人工授精を始めた時、あるいは体外受精を始めた時も、ほぼ3回(体外受精の場合、3回の採卵)のうちにその治療があっていれば結果が出ています。

原因がなくなって、妊娠するはずの方であれば、3周期のうちに妊娠する、それは治療を変えた場合も大々当てはまる、と考えて良いでしょう。

さいごに(執筆者付記)

この論文は医師が電話で聞く限り特別な病気のないカップルにボランティアになってもらい、周期当たりの妊娠率と流産率を調べたという、一見するとなんでもないデータですが、いろいろな論文に引用されています。

それはこの研究がニューヨークのコロンビア大学という有名な研究機関でされたという信頼性もありますが、「以前」どうだったかをその方の記憶に頼って聞くのではなく「研究に参加してから」1年間追跡するという「前方視的研究」であったことが大きな理由です。

さらに約1年間不妊治療をせずにきちんと病院に通ってくれる方を集められるかどうか、など意外にまじめな参加者を集めるのが難しい研究だったにもかかわらず、210人に声をかけて、192人が最後まで研究協力してくれたという質の良い参加者を選べたという理由もあります。

論文に書いてはありませんが推測するに、研究者の友人である医師や、看護師などまじめに来てくれそうな人を厳選したのでしょう。

この研究者としては、結婚式を挙げたばかりのカップルだけに参加してもらいたかったのでしょうが、さすがにそれでは集まりが悪いと考え、参加までに4周期以上避妊せず性生活を行ったカップルを除外するにとどめています。

現在普通にこのような研究をすれば、途中で参加がつらくなってしまうカップルももっと多いと思いますし、6か月を超えて妊娠しないカップルはおそらく研究参加をやめて、さっさと不妊治療を開始してしまうのではないでしょうか?

Zinaman MJ, et al. Fertil Steril. 1996

 

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