Noah ART Clinic武蔵小杉(ノア・アートクリニック)

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コラム

不妊治療・検査

精子の凍結保存〜凍結しても大丈夫?〜

体外受精や人工授精などの不妊治療で、精子を凍結保存することがあります。

 

忙しいご夫婦の不妊治療では、お二人のスケジュールを合わせるのも大変です。

もし、精子だけでも凍結保存しておいて、女性のスケジュールだけにあわせていつでも人工授精や体外受精の治療ができれば、お二人ともかなりストレスが減りますよね。

 

でも、凍結しても精子は大丈夫なのでしょうか?

やはり、凍結しないで当日精子を取った方が、妊娠の確率が上がるのではないでしょうか?

また、凍結した精子を使って妊娠した場合、生まれてくる赤ちゃんに異常が多くなったりはしないのでしょうか?

 

凍結保存の問題「細胞の変化」

 

図1.凍結による障害

凍結保存するときに一番問題になるのは、細胞の中にある水が凍って塊となって、細胞の中のミトコンドリアや、細胞を囲む膜が壊れてしまうことです(図1、上段)。

そこでどんな細胞でも凍結するときには、細胞の中の水を少し抜いて、「締めて」おきます。

白菜やキュウリの水分を抜くのと同じ原理です

「締め方」は、通常は濃い食塩水のような液に細胞を浸して、細胞膜を通って自然に水が抜けるようにしています。

白菜やキュウリのお漬物を作るときに、まず野菜に塩をふって、その塩に水分が吸い取られて野菜がしわしわになるのと同じ原理です。

同時に、細胞を包んでいる膜を保護するために、特殊な油を少しだけ培養液に混ぜて、凍ったり解かしたりしたときにできる氷で膜に傷がつかないようにしています。

 

最も大切な精子の「核」は頑丈にできている

 

精子で一番大事な部分は、核(遺伝子DNAを含みます)が入っている頭の部分です。

もし、これに傷がついたり、壊れてしまったりすると、受精したあとで受精卵が発生しなくなったり、生まれてくる赤ちゃんに影響が出てくる危険性があります。

 

しかし幸いなことに精子の核は、非常に丈夫にできています。

これは精子が、長い進化の過程でヒトが海に住んでいた遠い祖先のころには海中、現在でも女性の子宮・卵管という長い道のりを旅したのちに卵子に行きつくために、自然にそのようになってきたのだと思われます。

 

精子の核のDNAは特殊なまとまり方で自身を守っています

 

遺伝情報が書かれているDNAは、壊れたり絡まったりしないように「特殊なタンパク(核タンパクと呼ばれています)に巻かれた状態」で核の中に収まっています。

一方、ヒトを含む哺乳類の、精子のDNAが巻き付いているプロタミンという核タンパクは、「タンパク同士がお互いぎゅっと手を結んでひとかたまり」となっています。

こうすることで水などの分子が入り込みにくくなり、様々な変化に強くなっているのです。

 

ちょうど、遺伝情報という書物を段ボール箱に入れて、ぎゅうぎゅうに詰めたコンテナのようなイメージです(図2上段)。

 

図2.精子核と卵子前核

これに対して、前述した(精子以外の)生きて活動している細胞では、自分の仕事に必要ないくつものタンパクを過不足なく即座に作れるよう、核の中に水や酵素が自由に素早く出入りしなければなりません。

 

卵子もこのような細胞のひとつですが、このような細胞では核の中で遺伝子の糸が巻き付いている核タンパク(ヒストンと言う名前です)同士の間にDNAがむき出しなっている部分があり、そこを中心にいつでも水や酵素が出入りして、必要なタンパクがすぐDNAから作れるようになっています。

棚と棚の間に通路があって、お目当ての本をすぐ見つけることのできる図書館のようなイメージですね(図2下段)。

 

このため精子の核と、卵子の前核1個に入っているDNAの量は同じですが、精子核の直径は約4-5ミクロン、卵子の前核の直径は40ミクロンと大きな違いがあります。

直径で約10倍ですから体積にすれば1000倍の大きさの違いがあるわけで、精子の核のなかでいかにDNAがコンパクトにまとめられているかがわかります。

 

硬くまとまった精子の核には水がほとんど含まれていないために、凍結融解の間の変化も受けにくく、従ってDNAはほとんど変化も、壊れたりもしないため、凍結精子を使って生まれてくる赤ちゃんに異常が多くなることはありません。

 

精子の「尾部」が凍結で傷ついてしまう問題

 

一方で、精子を動かしている尻尾の部分(尾部「びぶ」といいます)は、凍結で比較的壊れやすいのです。

これは、尻尾の部分がしなやかさを保つために比較的水を多く含むことと、精子の周囲にたくさんある水が凍るとき、できる氷の塊が長い精子の尻尾を傷つけるのではないかと考えられています(図3)。

 

図3.頭部は強く、尾部は弱い

 

一般に、元々の運動率が100%の精子でも凍結融解を一回すると、解かした後の運動率は50-70%になってしまうといわれています。

核の中にある遺伝子は守られていても、人工授精など長い距離を旅しなければならないときには、卵子のいるところまで移動できなくなってしまうわけです。

 

原因ははっきりしないのですが、男性によって凍結してもあまり運動率が下がらない方と、運動率がかなり下がってしまう方がいます。

凍結しても運動率があまり下がらないタイプの男性であれば人工授精でも(卵子のところまで泳ぎ切って)妊娠することができますが、もともと運動率が低かったり、数が少ない場合は多くの場合、やはり妊娠率は下がってしまうようです。

 

ガンなどの病気が理由で精子を凍結する場合、その後に人工授精で妊娠する例が非常に少なく、ほとんどが「卵子に精子を直接注入する」顕微授精で妊娠していることからも、凍結すると人工授精の妊娠率が悪くなることがわかると思います。

ですから精子を凍結するのは、体外授精(顕微授精)に使うためであれば(核の中のDNAが安全に保存されていれば良いので)まったく問題はありませんが、人工授精に使うためには注意が必要、となります。

 

凍結に弱い精子を持つ男性の場合は、人工授精の場合には、ご夫婦のタイミングが合わない場合にはその周期だけおうちでsexをしていただくようにしたり、凍結せずに人工授精の日を1-2日ずらしていただいたりした方が無難です。

 

単身赴任や単身での海外赴任の場合などは、どうしても凍結保存した精子を使わなければならなくなりますが、人工授精を3回以上続けても妊娠に至らない場合には、体外受精に進むかどうかを先生と相談するほうがよいでしょう。

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