帝王切開から次の妊娠まで、どのくらい間隔をあけたら良いの?
大変だった不妊治療がおわり出産すると、あまりにかわいい赤ちゃんを見てつい、二人目がほしくなる方も多いと思います(図1)。
(図1)
ところが帝王切開のお産だと、産科でお世話になった先生からは「出産から次の妊娠まで、1年はあけてください」とのアドバイス。
「でも、1年も待っていたらまた次の治療が遅くなる、お友達は同じく帝王切開だったけれど半年で妊娠していいと言われたみたいだし、私は特別なのかしら…」
特に35歳を過ぎて妊娠・出産し、凍結受精卵の数も少ない場合、受精卵をできるだけ早く戻して二人目の治療を先に進めたい気持ちもわかります。
もし、1年より短い期間で妊娠したら、どのくらいのリスクがあるのでしょう?
やはり子どもは一人授かっただけで感謝すべきで、それ以上は「運が良ければ」と考えて、十分な時間を空ける方が良いのでしょうか?
帝王切開後の妊娠出産のリスク
最初のお産が帝王切開だった場合、通常1年あけて次の妊娠を考えるというアドバイスは海外の様々なガイドラインが勧めています。
よく引用されるアメリカ産婦人科学会のガイドラインには「帝王切開後の女性には、次の妊娠までの期間があまり短いと子宮破裂のリスクが増加することを伝えるべきです。分娩から分娩までの間隔が18-24ヶ月以内では、子宮破裂のリスクが増加します」と書いてあります※1。
この数字の根拠は、帝王切開のあと下から(経膣分娩)のお産を試みた場合の子宮破裂の確率です。
帝王切開後の経膣分娩での子宮破裂確率の研究
2000年頃までのアメリカでは、今のように「帝王切開のあとのお産はすべて帝王切開」ではなく、経膣のお産を選ぶ妊婦さんや、それを助ける先生がかなりの数いらっしゃいました。
お産という強い力がかかったときに破裂するリスクがどのくらいで元に戻るかを調べれば、帝王切開でできた傷がどのくらいで治るかがわかるという科学的な興味からも、子宮破裂がおこる確率が研究されたのです。
ある研究では、帝王切開のあと経膣分娩を試みた2,409人のお母さんのうち、子宮破裂となったのは29人(1.2%)でした。
このうち帝王切開から次の分娩まで18ヶ月以内の場合は311人中7人(2.25%)、19ヶ月以上の場合には2,098人中22人(1.05%)だったそうです※2。
また、別の研究では1527人の女性が帝王切開後の経膣分娩を試み、分娩から分娩まで12ヶ月以内、13ヶ月から24ヶ月、25ヶ月から35ヶ月、36ヶ月以上でそれぞれ子宮破裂の確率は4.8%、2.7%、0.9%、0.9%でした※3。
帝王切開から最低18ヶ月あける必要があるとの結論
この二つの研究からは、
- 帝王切開から次のお産まで少なくともヶ月は間隔をあけないと、それ以上にくらべて破裂の危険性は倍になる
- 逆にヶ月以上あければそれ以上経っても傷は強くならない
と考えられます。
最後の生理から分娩予定日までは280日(1ヶ月30日として約9ヶ月)ですから、帝王切開から次のお産まで18ヶ月あけるとすれば、手術から9ヶ月(1年弱)たって生理が始まれば、急いでいるなら妊娠してもよいことになります。
一方で、余裕があるなら、25ヶ月あけるために手術から16ヶ月、約1年半待ってから妊娠を考えればよいことになります(図2)。
これが1年、の根拠です。
(図2)
2024年の、生産率や妊娠率を比較した論文
ところが米国不妊学会に2024年に発表された論文では、アメリカのART登録施設で一人目を帝王切開で出産し、その後二人目を凍結胚移植で授かった6000人を超えるお母さんの中で、帝王切開後9か月以内に移植した方が5%、6か月以内の移植が1%いたといいます※4。
これを9か月以上たってから移植(分娩まではおよそ18か月;推奨されている期間)した方と比べても、生産率(赤ちゃんが死なずに生れる率)や妊娠率が下がったりはしない、とこの論文は結論しています。
ちなみになぜ9か月以内に移植をしたのかははっきりしませんが、この方たちのAMHの値は明らかに低いこともデータとして示されているので、卵巣の力が落ちている方が、急いで移植をした可能性は考えられます。
この論文の中で著者は
「この結果だけで帝王切開から次の分娩まで18か月以上あける、という提言を否定することはできない。ただ年齢とともに妊娠率低下や流産率上昇が確実に起こる不妊診療では、帝王切開後の出産間隔はリスクとベネフィットを勘案(バランス)して考えるべきであろう」
と述べています。
帝王切開から次の妊娠の期間はバランスを優先して考える
子宮破裂の確率は、下から(経膣分娩)出産を試みた場合、手術から妊娠まで3か月以内では5%ですが、あくまでこれは強い陣痛が帝王切開の傷にかかる場合です。
このような極端な状況でも95%の方は子宮破裂をせずにお産になっています。
もちろん早い週数での帝王切開を予定していて、家が近くてちょっとでも痛みが来たときにすぐに病院に行くことができる方でも、子宮破裂の確率が1年待った場合と全く同じではありません。
でもたまたま自然に妊娠してしまった場合、危険だから中絶しましょう、とまで断言するお医者さんも少ないのではないでしょうか?
帝王切開から次の移植までの期間は、不妊の主治医の先生と相談する余地は、ないわけではありません。
10人にひとりが体外受精で生まれ、その約30%が帝王切開で生まれているといわれます。
次の妊娠まで実際どのくらい間をあけたら、どんな危険性がどのくらい高くなるかと言うデータは、みんながとても知りたいデータのひとつではないかと思います。
帝王切開の守護聖人「Saint Caesarius of Terracina」について
ところで、帝王切開にはSaint Caesarius of Terracinaと言う守護聖人がいて、着物に聖母子のシンボルをつけています※5。
https://en.wikipedia.org/wiki/Caesarius_of_Terracina
この方は殉教されたのですが、その理由が「毎年一人の若者に1年なんでも贅沢をさせ、最後のお祭りの日に身投げをして自殺してもらう」という古代ローマで行われていた野蛮な風習をやめさせようとして、ローマの民衆に殺されたというものですから、全く帝王切開には関係がありません。
また帝王切開は14世紀ごろまでは、お産で亡くなってしまったお母さんから赤ちゃんだけでも取り出して救おうという手術で、この方が殉教して聖人となった西暦107年(2世紀)にはお母さんとなる女性にとって、帝王切開は無事を願って受ける手術ではなかったはずです。
いつどうしてこの方が帝王切開の守護聖人となったのか、私は残念ながら調べられませんでした。
彼の殉教の200年後、時のローマ皇帝ウァレンティニアヌス1世の病気の娘が、この聖人を祭った教会にお参りに行ったときに奇跡的に治癒したことから、その後この聖人を祭る教会が世界各地にできたといわれています。
女性を救った、というところから帝王切開の守護聖人になったか、はたまた安直にCaesariusという名前が帝王切開(Cesarean section)を連想させたのか、由来はわかりませんが、守護聖人のイコン(聖画像)を持っていたら何かご利益があるかも知れません。
参考文献
※1:ACOG. Interpregnancy Care. Obstetric Care Consensus Number 8 January 2019.
※2:Shipp et al. Interdelivery interval and risk of symptomatic uterine rupture. Obstet Gynecol. 2001.
※3:Bujold Eet al. Interdelivery interval and uterine rupture. Am J Obstet Gynecol. 2002.
※4:Zalles LX et al. Impact of time interval from cesarean delivery to frozen embryo transfer on reproductive and neonatal outcomes. Fertil Steril. 2024.