いくつ受精卵を戻す? ~二つの胚を移植して授かった双子の予後~
これまで2回、ひとつずつ胚を移植したけれど、残念なことにまだ赤ちゃんができません。
そこで改めて採卵をしたところ、元気な受精卵が2個できました。
先生からは、
「一つ受精卵を戻すのが原則ですが、いままで2回、うまくいってないことを考えると今度は二つ戻してもいいかもしれません。ただ、その場合二卵性の双子になる危険性が出てきます。移植の日までに、ご主人とよく相談してきてくださいね。」
とお話がありました。
いっぺんに二人生まれて育てるのは大変そうだけど、移植には保険で決まっている回数制限がある。
だから、双子を避けて一つずつ移植することにあまりこだわると、すぐ保険がきかなくなって、もしかすると経済的に治療を続けられなくなるかもしれない…。悩ましいですね。
体外受精治療で、上記のように時に悩ましい問題となるのが移植胚の個数です。
もちろん、最初の胚移植の時から二つの胚を移植する方は少ないでしょうが、妊娠しなかったり流産が続いたりすると、6回、あるいは3回という保険が効く移植回数の制限も気になってきます。
双子に伴うリスクの種類と確率について
実際に双子になった場合、どのくらい双子にともなうリスクを覚悟すれば良いのでしょうか?
自然妊娠でも、双子(双胎)は1%位の確率で生まれてくると言われています。
でもやはりお腹の中に赤ちゃんが二人いるのでお母さんには負担となり、妊娠に伴う合併症を起こす率が高くなります。
本を見ると、妊娠高血圧(妊娠中毒症)や早産が多い、お産の時の出血も多い、ほぼ必ず帝王切開となる、など怖いことがたくさん書いてあります。
たとえばある報告では、つわりは通常1.7%のところが5%と3倍、妊娠高血圧は通常17.8%のところ23.8%と1.3倍に、また重症の妊娠高血圧は通常3.4%のところ12.5%と3.7倍に、となっています(表1)※1。
表1.単胎と双胎の妊娠合併症発生率
項目 | 単胎 (n = 71,851) (%) |
双胎 (n = 1694) (%) |
双胎による 危険度上昇(倍) |
危険度上昇の 95% 信頼区間 |
---|---|---|---|---|
つわり | 1.7 | 5.1 | 3 | 2.1–4.1 |
切迫流産 | 18.6 | 26.5 | 1.4 | 1.3–1.6 |
貧血 | 16.2 | 27.5 | 1.7 | 1.5–1.9 |
常位胎盤早期剥離 | 0.5 | 0.9 | 2 | 1.2–3.3 |
妊娠高血圧 | 17.8 | 23.8 | 1.3 | 1.2–1.5 |
重症妊娠高血圧 | 3.4 | 12.5 | 1.3 | 3.3–4.3 |
(Campbell DM, et al. Int J Gynaecol Obstet. 2004より改変)
体外受精と自然妊娠で危険度が違うの?
では体外受精でできた双子は、自然にできた双子より、こういう危険が増すのでしょうか?
この場合、一卵性の双子なのか、二卵性の双子なのかで、よく起こる母と子の合併症が異なるので、この二つを区別する必要があります。
自然妊娠と体外受精でできた、二卵性の双子だけを比較した2016年の文献(15の報告をまとめたもの)では、前置胎盤、帝王切開率、早産率、超早期早産率、低出生体重児、そして先天異常の率が自然妊娠の双胎より高い、といわれています※2。
ですからやはりARTで二つの受精卵を移植して双子を妊娠した場合には、自然に二卵性の双子を妊娠した場合より、早産などに注意しなければならないといえるでしょう。
妊娠率と受精卵のグレードが与える影響について
一方で、残っている受精卵のグレードがやや低くて「一つでは妊娠率が低いので保険が効く回数をすぐ使い切ってしまいそう…」ということについてはどうでしょう?
たとえば、一つの受精卵が赤ちゃんになる率が30%ある場合を考えてみましょう。
表2.二つの受精卵を戻して双子が生まれる確率
一つの受精卵が 赤ちゃんまでなる確率 |
双子になる確率 | 一人子どもが生まれる確率 | 出産に至らない確率 |
---|---|---|---|
30%の場合 | 9%* | 42% | 49%** |
5%の場合 | 0.2% | 10% | 90.3% |
* 0.3 x 0.3= 0.09
** (1-0.3)x(1-0.3)= 0.49
二つの受精卵を移植して双子になってしまう確率は表2のように9%となり、自然妊娠の場合の10倍弱とかなり高くなります。
一方妊娠率は一つ戻した場合30%だったのですが、2つ戻しても42%とそれほど高くなりません。
ところが一つの受精卵が赤ちゃんになる率が5%しかない場合だと、双子となる確率は0.2%で、一方赤ちゃんが一人生まれる率は10%と、2倍に上昇します。
このように一つひとつの受精卵が赤ちゃんになる確率が高いか、低いかによって、双子の危険性と妊娠率の上昇度は異なります。
残っている受精卵のグレードによって代替の妊娠率は分かるはずですから、この数字を考えて一つ戻すか、二つ戻すかを先生とよく相談することが重要です。
こぼれ話〜歴史に見る多胎出産〜
かつては双子は忌まわしいものとされていた
さて体外受精ができる以前も、自然妊娠で双子が生まれることはありました。
双子は時代や地方によってはあまり良いことではない、と考えられることがありました。
ドラマなどでも、双子が生まれた場合に一方がどこかに捨てられるとか、他の家に養子に出されるというお話をご覧になったことがあるのではないでしょうか。
比較的有名な例では、徳川家康の次男、秀康というお殿様の例があります。
示談ではあったのですが(他にもいろいろ複雑な事情があったようですが)、双子で生まれたためもあって家康に愛されず、家康に豊臣秀吉の養子に出され、その後秀吉に関東の豪族結城氏の養子に出されました。
なおこの秀康は、二代将軍徳川秀忠のお兄さんにあたります。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B5%90%E5%9F%8E%E7%A7%80%E5%BA%B7
結城秀康は荒々しいけれどもこの時代としては有能なお殿様だったようで、数々の合戦で活躍し、弟の秀忠ともうまく付き合っていたようです。
ご存じの方も多いと思いますが、秀康の子どもたちは跡を継いだ越前松平家、いったん養子となった結城(松平)家はもちろん、いくつかの藩の藩主や藩主夫人になって、今でもその子孫の方たちがいらっしゃいます。
また双子の弟は若くしてなくなったと言う説もありますが、滋賀県の神官となって平穏な人生を送った、とも言われています。
最初は親に愛されなかったけれども、それなりに充実した人生を、二人とも過ごした、と思いたいですね。
一方で歓迎された「三つ子」
このように双子がなんとなく肩身が狭かった一方で、三つ子が生まれると「働き手が多くなった」といってお祝いされることが多かったともいいます。
子どもが生まれるのは基本的におめでたいから、一人でもお祝いするし、三人でもお祝いすることになります。
なぜ双子だけ嫌われたのかの原因ははっきりしていませんが、昔の「イエ」の枠組みでは、どちらが上かわからない二人が同じイエの中にいると(相続などで)争いの種になりやすい、と周りの人が考えたのかもしれません。
参考文献
※1: Campbell DM, Templeton A. Maternal complications of twin pregnancy. Int J Gynaecol Obstet. 2004 Jan;84(1):71-3. doi: 10.1016/s0020-7292(03)00314-x. PMID:14698833.
※2:Qin JB, Wang H, Sheng X, Xie Q, Gao S. Assisted reproductive technology and risk of adverse obstetric outcomes in dichorionic twin pregnancies: a systematic review and meta-analysis. Fertil Steril. 2016 May;105(5):1180-1192. doi:10.1016/j.fertnstert.2015.12.131. Epub 2016 Jan 19. PMID: 26801066.