Noah ART Clinic武蔵小杉(ノア・アートクリニック)

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精子の旅~精液検査の解釈~

 

男性が精液検査を受けた方が良い理由

不妊治療に通いはじめた奥様の中には「彼に男性側検査のことを、どう説明したらいいかしら?」と心配される方がいらっしゃいます。

男性も精液検査で「運動率が低い」と言われると、試験に落ちたみたいでちょっと嫌な感じ、できれば受けないで済ませたいな、と正直、思います。

ですが不妊の医師としては、女性側の通水や卵管造影検査と同様、精液検査はできれば早く受けていただきたい検査です。

精液検査の正常値の指標について

精液検査の正常値、といわれるものが約10年おきにWHO(世界保健機関)から出されています(表)。

 

精液性状の正常下限値

項目 WHO(1999) WHO(2010) WHO(2021)
精液量(ml) 2.0 1.5 1.4
精子濃度(x106/ml) 20 15 16
精子運動率(%) 50 40 42
正常精子形態率(%) 15 4 44

12ヶ月以内に妊娠した男性の検査値の95%値;

100人に5人はこの値以下で妊娠

 

 

たくさんの指標がありますが、よく使われるのは量、濃度、運動率の三つです。

中でも

  • 濃度(1mlの中に何匹精子がいるか)
  • 運動率(100匹の精子のうち何匹が動いているか;どんなに健康な男性でも必ず何割かは動いていない精子がいます)

がわかりやすい指標です。

基準値を下回る=自然妊娠できない、ではありません

実際には、これらは「精液検査正常下限値」で12ヶ月以内に妊娠した男性100人のうち、95人はこの値以上だったという値です。

逆に考えれば5人はこの値以下でもすぐに妊娠しているわけですから、基準値を下回ったからといって、すぐに人工授精や体外受精を考えなければならないわけではありません。

ちなみに数値を見てみると1999年の下限値に比べると、2010年、2021年の下限値はすこし悪くなっており、このことから2010年ころには男性の妊娠する力が低下した、といわれた」ことがありますが、それほど大きく変化しているわけではありません。

医師はこの数値を見て「合格」とか「不合格」とか考えているわけでは、もちろんありません。

精液検査をした方が良い理由

では精液検査の結果は、診療にどう役立てられているのでしょう。

精液の検査で問題がない場合は…

検査をして、男性の精子の機能がとても良ければ、女性側にどこかに弱点があることが推測されます。

たくさん考えなければならない原因の一つが消されるので、正解にたどり着きやすくなるのです。

精液の検査で問題があった場合は…

逆に精子の機能がかなり低めであれば、それが原因である可能性を考えて検査や治療を進めていくことになります。

後者の場合でも、現在では一匹も精子がいないという場合(無精子症)を除いて、精子が極端に少なかったり、運動率がかなり悪かったとしても、体外受精や顕微授精をしてしまえばたいていの場合赤ちゃんを得ることが可能です。

また、泌尿器科で治療をすれば自然妊娠が可能となる場合も、少なからずあります。

精液検査をして結果を知っておくことが良い治療につながります

実際に精液検査をすると30%位の男性はとても強い精子(濃度も5000万匹/ml以上、かつ運動率50%以上)を持っており、30%位の男性は濃度か、運動率が基準値以下となります。

 

ただ全体の10%位の男性はかなり低めの検査結果(運動率15%以下)となり、この場合は早めの体外受精や、泌尿器科受診を勧めることになります。

「精液検査をしない」という選択をすると、これら極端に良い場合や、悪い場合の情報、あるいは適切な治療の可能性を捨ててしまうことになるのです。

 

とても強い精子の30%と、かなり悪い10%を除いた残りの60%の場合(中間の場合)はどうなるかといえば、この場合には男性側、女性側、どちらにも原因があると考えて診療を進めることになります。

実際、2,000万匹の精子が50%動いていても妊娠できない場合もあれば、500万というWHOの基準以下でもすぐ妊娠する場合もあるのは、普通の医学的な検査から見るとちょっと幅がありすぎるように思えませんか?

妊娠するかどうかは子宮や卵管の力が重要です

実は精液検査の結果がよくても悪くても、妊娠するかどうかはかなりの程度、女性の(子宮や卵管の)力が関係しています。

人間で言うと30kmの長距離を精子は走る!

精子の大きさは、頭部といわれる遺伝子が入っている大事な部分は5ミクロン、尻尾も含めても50ミクロンしかありません。

子宮の入り口から卵子の待っている卵管(卵管膨大部)までの距離は約10cm(100,000ミクロン)ありますから、頭部の20,000倍の距離を旅してようやく卵子と行き会うことができることになります。

もし精子の頭部が大人の背の高さ(1.5m)だとすれば、10cmの距離は30kmにあたります。

30kmという距離は、当院がある武蔵小杉からなら多摩川を渡り、品川から銀座を通り越して隅田川を渡り、東京スカイツリーくらいまでです。

30km走を終えた後も精子には過酷な仕事があります

歩いていけないわけではありませんが、到着した後で精子は卵子の中に他の精子と競い合って潜り込む大事な仕事があります。

やっとの思いで到着したスカイツリーで、今度は頑張って非常階段を展望台まで駆け上る、という感じでしょうか。
(ちなみに、スカイツリーの非常階段は地上から450m登った展望回廊まで2,523段あるそうです。普通は立ち入り禁止ですが、競技会の時などに解放されます)

精子がこの仕事を完遂できるのは子宮や卵管のおかげです

性交後、卵管には数分で精子が現れることから、この距離の移動を子宮や卵管の動きが助けていることは、昔から知られていました。

さらに医療用の無害な放射性粒子を精子くらいの大きさにし、子宮の入り口に置いておくと、数分で、それも正しく排卵する側の卵管に運ばれることがわかっています。

精子はかなりの追い風(5分で武蔵小杉からスカイツリーまで行くとすれば、時速360km、新幹線より早いことになります)を受けて、旅をしていることになるのです。


精子の輸送については、まだわかっていないことが多いのですが、少なくとも一人だけで旅をしているわけでないことはお分かりだと思います。
妊娠はやはり男性と女性の共同作業、お互いの力をあわせてするものだといえます。

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